「どうして、あいつは育たないんだ?」――多くの経営者が抱える共通の悩み
「右腕がなかなか育たないんだよ」
――これは経営者の方々からよく耳にする言葉です。
「優秀な人材を採用したはずなのに、いまいち伸びない」
「積極的に任せているつもりなのに、成長の実感がない」
「自分が会社を空けると、途端にスピードが落ちてしまう」
「結局、最後は自分が動かないと回らない」
――そんな声は、決して珍しくありません。
しかし、本当に問題は“人”にあるのでしょうか?実は、右腕が育たない原因は「任せ方」にもあります。「任せる」という言葉には、誰もがそれぞれの解釈を持っています。多くの経営者が無意識のうちに“誤った任せ方”をしており、それが人を育たなくしているのです。
「任せているつもり」が最も危険な落とし穴
経営者の中には、「任せているつもり」で実は任せていない方が多くいます。たとえば次のようなケースです。
- 「任せる」と言いながら、最終判断はいつも自分がしている
- 結果が出ないとすぐに口を出してしまう
- 報告や相談がないと不安で、ついチェックしてしまう
これは、悪意ではなく“責任感”の裏返しです。経営者として「失敗させてはいけない」「会社を守らなければならない」という思いが強いほど、つい自分が主導してしまう。しかし、この「任せているつもり経営」こそが、悪意はないからこそ右腕が育たない、最も根深く乗り越えにくい壁でもあります。
任せたつもりで任せていない。見守っているつもりで、実は“監視”している。
これでは、幹部候補は挑戦も判断もできません。そしていつしか、「社長がいないと決まらない」組織が出来上がってしまうのです。
「育たない人材」は存在しない――育つ仕組みがないだけ
結論は明確です。「育たない人材」などほとんど存在しません。育つ仕組みがないだけです。問題は、会社の仕組み(=システム)にあるのです。
幹部が育たない会社には、いくつかの共通点があります。
①権限と責任の範囲が曖昧
「どこまで任せていいか」「どこからは社長が決めるか」がはっきりしていない。その結果、右腕は判断に踏み出せず、常に「確認待ち」になります。
②判断基準が“社長の感覚”に依存している
「うちの会社は空気でわかる」「社長の意向を読めばいい」――これが最も危険です。判断基準が言語化されていない組織は、社長がいなくなった瞬間に止まります。
③フィードバックの仕組みがない
任せたあとに「なぜ良かったか、なぜ悪かったか」を話し合う場がない。だから部下は成功体験も失敗体験も体系化できない。これらは、すべて“構造の問題”です。人の意欲や能力の問題ではありません。「仕組み」があれば、人は必ず育ちます。逆に、仕組みがなければ、どれだけ優秀な人でも力を発揮できません。
「任せる」から「仕組みで育てる」へ――3つの実践ステップ
では、右腕を育てるために、何から始めればよいのでしょうか。ポイントは、「任せる」から「仕組みで育てる」への発想転換です。
以下の3つのステップを踏むだけで、組織の育成力は格段に高まります。
Step 1:役割・権限・判断基準を明確にする(見える化)
まずは、「どこまで任せるか」「何を判断させるか」を明確にすることです。
たとえば次のような整理を行います。
- 権限:どこまで自分で決めてよいか
- 責任:結果・責任の範囲はどこまで負うのか
- 判断基準:何を優先し、何を守るべきか
この3点を“紙に書いて共有”するだけで、混乱の大半は解消されます。
※ここでいう判断基準とは、単なるルールではなく、「社長がどのような価値観や論理に基づいて最終判断を下しているか」を言語化することです。
Step 2:経営者と後継者で目的を共有する(共有化)
任せる目的が曖昧だと、人は迷います。
「なぜこの仕事を任せるのか」
「どんな成果を期待しているのか」
「何を学んでほしいのか」
これらを共有しておくことで、後継者は“目的思考”で動けるようになります。人は「意味がわからない仕事」には力を発揮できません。
Step 3:定期的に振り返り、次に活かす(フィードバック化)
任せたあとは、必ず“振り返りの時間”を設けてください。結果を評価するのではなく、「判断のプロセス」を一緒に点検する。
- どの情報をもとに判断したか
- 他の選択肢はなかったか
- 何を優先したのか
この対話を繰り返すことで、後継者の判断力は確実に磨かれていきます。
経営者がすべてを背負う時代は終わった
多くの中小企業では、経営者が「自分が背負わなければ」と頑張りすぎています。しかし、それでは組織は永遠に自走できません。経営とは、経営者一人がすべてを決めることではなく、「自ら考え、判断し、行動できる人材が育つ仕組み」を整えることです。
経営者がいなくても会社が動く。それが真の「任せる経営」です。
育つ仕組みを整えたとき、組織は初めて自走を始める
右腕を育てたいなら、「人」を変えるよりも「仕組み」を変える。任せ方を変え、判断を共有し、育成を仕組み化する。それだけで、驚くほど組織は変わります。
経営者がすべてを抱え込む時代は、もう終わりました。次の時代を担うのは、“考えて動く人材”です。経営者の想いを、仕組みに変える。それが、後継者・幹部育成の第一歩です。
経営者の「想い」を“仕組み”に変える
経営者の右腕となる人材を育てるための一手として「後継者・幹部育成研修」の活用も有効です。経営者の判断基準・思考構造・経営理念を次世代に体系的に移植する一助となるでしょう。「社長の頭の中」を「会社の資産」として次世代へ残すことが重要です。「任せ方を変えたい」「右腕を育てたい」と本気で考えている方は、検討してみてはいかがでしょうか?
経営者の想いを、次の時代へ。“育つ仕組み”をつくっていきましょう。



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