「リスクは書かない方がいい」と思っていませんか?
実は、それは逆効果です。
金融機関や行政の担当者は、「リスクがない事業」よりも「リスクを理解し、対策をしている事業」を高く評価します。なぜなら、リスクを認識していない経営者ほど、予期せぬトラブルで事業を止めてしまう危険があるからです。
この記事では、専門的な経営理論を使わずに、誰でも実践できる「リスクと対策の書き方」を、やさしく解説します。「信頼される事業計画書」を作りたい中小企業・小規模企業経営者や個人事業主の方は、ぜひ最後までご覧ください。
なぜ「リスクと対策」は事業計画書で最重要なのか
経営者の中には、「リスクを書いたらマイナス評価になるのでは?」と不安に思われる方もいらっしゃいます。
しかし、金融機関の担当者はこう考えています。
「リスクを認識していない経営者が一番危ない」
たとえば、原材料の高騰や景気の変動、法改正などは、どんな企業にも起こり得ることです。それを想定し、どう対応するかを考えている経営者は、“備えのある経営者”として信頼されます。
逆に、「問題は起きない」と書いてある計画書は、「この人は準備不足だ」と判断されがちです。
つまり――リスクを書くことは、信頼を得る第一歩なのです。
リスクを洗い出す3つの視点
リスクを考えるとき、難しく考える必要はありません。次の3つの視点から整理するだけで、抜け漏れなく洗い出せます。
ステップ1:市場の変化(景気・顧客・物価)
景気の変動や物価の上昇、顧客ニーズの変化などは、すべて「市場の変化」です。
たとえば、次のように考えます。
- 「材料費が10%上がったら、原価率がどのくらい増えるか」
- 「物価上昇でお客様の財布の紐が固くなったら、どのくらい売上が減るか」
このように、「もし~になったらどうなるか」を数字でざっくり考えるだけでOKです。
ステップ2:競合の動向(価格競争・新規参入)
どんな業種にも競合は存在します。特に近年は、インターネットを通じて他業種・他業界・地域からの参入も増えています。
- 「同じような商品を安く売る競合が現れたら?」
- 「模倣商品が出たら、どんな影響があるか?」
こうした想定は、金融機関にとって“現実的な経営者”の証です。
ステップ3:法規制・社会的リスク(法改正・災害・人材)
法改正や最低賃金の上昇、災害、感染症などもリスク要因です。
たとえば、次のように記載します。
- 「最低賃金の改定により、人件費が年間30万円増加見込み」
- 「自然災害で店舗が一時休業となった場合、売上が月30万円減少の可能性」
数字がわからなければ、「だいたいこのくらい」という感覚値でも構いません。重要なのは、“現実的に考えている”ことです。
リスクを「数字」と「根拠」で示す方法
「リスクを書いても信頼されない」という人の多くは、根拠のない表現になっていることが原因です。なぜなら、金融機関の担当者は、 「あなたの事業が “具体的に” どれだけ影響を受けるか」を知りたいからです。
たとえば、
「材料費が上がる可能性がある」
とだけ書いても、説得力は弱いです。
しかし、
「過去3年間で仕入れ価格が平均5%ずつ上昇しているため、今後も同様のリスクがある」
と書くと、ぐっと信頼感が増します。
数字は、難しい統計を使う必要はありません。次のような簡単な方法で示せます。
- 比率:「仕入れ原価の割合」「リピーター比率」など
- 金額:「家賃・人件費の上昇幅」「原材料費」など
- 件数:「取引先の数」「月間受注件数」など
このように“数字で語る”だけで、金融機関の印象は確実に変わります。
リスクへの対策をどう書くか
リスクを書いたら、必ず「対策」もセットで記載します。このパートで重要なのは、「やること」「時期」「効果見込み」を明確にすることです。
対策の考え方:3つの階層で整理
- 回避策:リスク自体をなくす。例:「複数の仕入先を確保し、依存を避ける」
- 軽減策:影響を小さくする。例:「原価高騰時はメニューの一部を季節限定に切り替える」
- 代替策:万一の時の対応手段。例:「売上が減った場合、テイクアウト・EC販売に切り替える」
この3つの対策を、抜け漏れなく考えるのはなかなか難しい作業ですが、「どのリスクにどの対策が一番効果的か」を整理することで、対策の実行力を高められます。
業種別の具体例
- 飲食店の場合
材料費高騰→地元業者と年間契約/代替食材リストを作成
感染症リスク→テイクアウトやデリバリー対応 - 美容室の場合
人材不足→スタッフの多能工化/予約システムで効率化
競合増加→既存顧客へのLINE配信・紹介割引で囲い込み - 製造業の場合
原料価格変動→契約見直しと価格転嫁の条件整備
機械故障→予備機の導入とメンテナンス周期の設定・明文化 - ネット販売業の場合
送料上昇→まとめ買い割引・送料別料金表示
模倣商品→ブランドロゴ商標登録と顧客レビュー対策
リスクは「悪」ではなく「信頼の証」
「リスクを書くと、マイナスになる」と思っている経営者ほど、実はチャンスを逃しています。金融機関や行政は、「リスクを理解し、備えている経営者」を高く評価します。事業計画書の“リスクと対策”は、あなたの経営力そのものを伝える部分です。
だからこそ、
- 現実を見据えて
- 数字で根拠を示し
- 具体的な対策を書く
これだけで、計画書の説得力は見違えるほど上がります。
「自分の事業に当てはめるのが難しい」「数字に直せない」と感じる方も多いかもしれません。まずは、「事業の不安点」や「懸念事項」を整理してみましょう。
リスクを書くことは、弱みを見せることではありません。「私はここまで考えている」という、信頼の証です。
もし「自分ではうまく書けない」「何をリスクとして挙げるべきかわからない」という場合は、専門家への相談も検討しましょう。あなたの業種・規模・地域に合わせた、具体的なアドバイスをもらえます。「どの数字をどう変化させれば良いかわからない」という場合でも、業界の過去データや平均値を提示してもらえるでしょう。詳細を計画書に落とし込む作業は専門家に任せて、本業に集中することができます。



コメント