―金融機関も納得する「実現性のある計画書」を書くためのお役立ちガイド―
「事業計画書を書いてください」と言われても、どこから手をつけていいか分からない――。多くの飲食店オーナーが、最初にぶつかる壁です。「数字が苦手で書けない」「自分の想いをうまく言葉にできない」そんな不安を感じている方も多いのではないでしょうか。
ご安心ください。事業計画書は、専門的な知識がなくても「順序」と「ポイント」さえ押さえれば、誰でも作ることができます。そして、それは単なる“融資のための書類”ではなく、あなたの想いを形にし、事業を成功に導く“設計図”でもあります。
この記事では、飲食店(カフェ・食堂・レストラン・テイクアウト専門店など)をモデルに、例文・書き方のコツを紹介します。特に、「客単価」「リピート率」といった、融資担当者が最も注目する”売上の根拠となる数字”をどう作るかに焦点を当てています。
読んだ後には、「自分のお店の計画が描ける」状態になれるはずです。
飲食店が「事業計画書」で失敗しないために
“熱意だけ”では伝わらない――金融機関が見るポイントとは
金融機関や行政機関が事業計画書を読むとき、最も注目するのは「想い」ではなく「実現可能性」です。どれほど素晴らしいメニューを考えていても、“実現できる根拠”がなければ、支援や融資の判断は得られません。
反対に、売上・費用・体制を現実的に描けていれば、「この人は現場を理解している」「計画性がある」と信頼を得られます。
この信頼を築くための設計・構成が、以下の6章です。
- 事業内容
- 市場分析と競争優位性
- マーケティング・販売戦略
- 組織体制・事業運営計画
- 財務計画
- リスクと対策
それぞれの書き方を、飲食店向けの作例・サンプルとともに見ていきましょう。
融資担当者が飲食店に抱く「2つの不安」
融資担当者は、事業計画書全体を通して以下の2点を確認しています。
- 人件費と原価が高すぎないか: 飲食業は利益率が低くなりがち。数字の管理能力を見ています。
- 客が継続して来る仕組みがあるか: 開業時の集客は簡単でも、継続的なリピート施策があるかが重要です。
あなたの計画書を、この2つの不安を”具体的な数字”で解消できているか、という視点で読み直してみましょう。
事業内容――「どんな店で、誰に、何を、なぜ提供するのか」
まず“お店の顔”を言葉にする
「事業内容」は、あなたのお店の“自己紹介”です。読む人が「どんな店か」「誰のための店か」「なぜこの店をやるのか」を一目で理解できるようにしましょう。
1.店舗コンセプトと提供メニュー
「地元産の無農薬野菜を使った“日替わりランチプレート”を提供する小さなカフェです。
働く女性が“安心して通える昼食”をテーマに、化学調味料を使わず手作りの味にこだわります」
2.ターゲット顧客層(ペルソナ)
「30〜50代のオフィスワーカーを中心に、健康志向の女性を主要顧客としています。
1日平均40名の来店を想定し、リピーター率60%を目標としています」
3.ビジネスモデルと収益の仕組み
「昼営業を中心に回転率を重視。テイクアウト比率を全体の30%とし、安定収益を確保します」
4.差別化ポイント・強み
「地元農家との直接契約により、新鮮な野菜を安定供給できます。
また、栄養士監修のメニュー構成で、健康と安心を両立します」
書き方のコツ
「誰に」「何を」「どうやって」「なぜ」――この4点を簡潔に説明できていれば合格です。
市場分析と競争優位性――この立地・この客層で勝てる理由を示す
“立地と競合”を数字で語る
数字やデータが苦手でも大丈夫です。市場分析は「現地を歩いて見たこと」と「簡単な数値」を整理するだけでも十分に通るものです。
1.商圏と顧客動向
「店舗半径1km以内にオフィスビルが5棟あり、昼間人口は約6,000人。
女性比率は約45%で、ランチ需要が高いエリアです」
2.競合分析
「徒歩5分圏内にカフェ3店舗、定食屋1店舗があります。
平均ランチ単価は1,000円。当店は1,200円とやや高めですが、“健康×時短×安心”を訴求ポイントに差別化します」
3.市場トレンド
「SNSでの飲食店検索が主流になっており、“健康志向”と“映える盛り付け”の両立が求められています」
4.優位性のまとめ
「地域密着と安心感を軸に、“地元野菜×女性支持”のポジションで優位性を確立します」
書き方のコツ
統計よりも、“実際に歩いて見た情報”と“簡単なデータ”で根拠をつくるのがコツです。
顧客分析――顧客の「満たされていない欲求」を探す
ターゲット顧客(例:子育て世代、ビジネスマンなど)が、”既存店に対して抱いている不満”こそ、あなたの店の”強みの種”です。
例:「近隣のカフェは席間隔が狭い」→「広々とした個室風席」が強みになる。
この「強みの種」を、客単価や客席数にどう結びつけるかを考えましょう。
マーケティング・販売戦略――お客様にどう見つけてもらい、どうリピートしてもらうか
“知ってもらう・来てもらう・また来てもらう”を設計する
1.販売チャネル
「主な販売経路は店頭販売とテイクアウト。
今後はLINE公式アカウントで予約受付を開始し、リピーター管理を強化します」
2.プロモーション戦略
「開店前にInstagramで地元情報アカウントと連携し、1,000人に先行告知。
チラシ配布と口コミ紹介カードを活用して初月の来店促進を図ります」
3.価格設定の根拠
「原価率30%を目安に、平均客単価1,200円。
競合よりやや高めですが、ボリュームと品質で満足度を高めます」
4.リピート施策
「LINE公式で週替わりメニューを配信。スタンプカードと連携し、再来店率70%を目指します」
書き方のコツ
「誰に」「いつ」「どんな手段で」実行するかを書くだけで、“戦略”になります。
価格設定――原価率と客単価の「適正ライン」を知る
飲食業の場合、原価率30%前後、人件費率30%前後が、事業を安定させる「黄金比」の目安とされます。この目安から大きく外れている場合、「なぜ外れているのか」を論理的に説明できる根拠が必要です。
例:「原価率が45%だが、SNSでの集客により広告費をゼロに抑えるため、全体利益率は確保できる」
このような”数字のバランス感覚”をチェックし、論理的な裏付けを与えられれば、より良い評価を得られるでしょう。
組織体制・事業運営計画――このチームで事業を回せることを証明する
“人”と“仕組み”で信頼を得る
1.経営陣と主要スタッフ
「代表は調理経験15年。副店長は接客・発注担当。
開業半年後に厨房補助1名を追加予定」
2.業務分担とフロー
「開店準備→調理→接客→清掃→会計→発注の流れを、日ごとにチェックリストで管理します」
3.外部リソースの活用
「経理は税理士に委託。Web・デザインは地域のクリエイターと提携」
書き方のコツ
“全員の役割”が明確に書けているかどうかが信頼を得る鍵です。
財務計画――数字で実現性を証明する
数字が苦手でも書ける!“根拠ある数字”のつくり方
1.必要資金と資金調達計画
「開業費用:500万円(内装300/設備100/運転資金100)
自己資金200万円、借入金300万円(日本政策金融公庫)」
2.売上予測
「客単価1,200円×1日40名×25日営業=月売上120万円」
3.費用と利益見込み
「原価率35%、人件費25%、家賃10%、広告費5%。
月利益:約30万円。3か月目で黒字転換を見込む」
書き方のコツ
数字は「希望」ではなく「根拠」で語ること。見積書や実績を元に計算することで信頼性が上がります。
損益計画――「売上」と「費用」の現実味(売上計画のコツ)
「客席数」×「回転数」×「客単価」という、飲食業の基本算式で売上を算出し、論理の筋道を示しましょう。特に「回転数」は、”時間帯別・曜日別”の分析で現実的な数字を出すと精度が上がり、融資の成否に好影響となります。
リスクと対策――“万が一”に備える信頼設計
“何が起きても大丈夫”と思わせる一文を
1.売上減少リスク
「雨天・閑散期はテイクアウト・デリバリーを強化し、売上減をカバー」
2.人材リスク
「アルバイト離職防止のため、柔軟なシフト管理と週次ミーティングを実施」
3.原材料リスク
「仕入れ先を2社確保し、価格変動時はメニュー構成を調整」
4.災害・感染症リスク
「保険加入・衛生マニュアル整備・キャッシュレス対応で備える」
書き方のコツ
「起こる可能性のあること×取る行動」をワンセットで書くと、実行力が伝わります。
事業計画書は、あなたの“想い”を数字で伝えるツール
事業計画書は、単なる融資のための“提出書類”ではありません。あなた自身が事業の未来を描くための羅針盤です。書きながら、「自分の強み」「理想のお客様」「必要な資金」が整理され、お店の方向性が明確になります。
数字や文章が苦手でも構いません。大切なのは、「自分の言葉で」「根拠をもって」書くことです。
あなたの想いを、数字と計画に変えたとき、その計画書は“伝える力”を持ちます。
飲食店経営者の想いを、金融機関が納得する「論理」と「数字の裏付け」に変換するのは、一人ではなかなか難しい作業です。しかし、「人件費と原価の適正バランス」「リピート施策の数字の妥当性」といった、飲食業特有の数字を丁寧に作り込んでゆくプロセスは、あなたの事業を”机上の空論”から”確実な計画”へと変えます。 あなたの”お店への熱い想い”を、融資を勝ち取る“説得力の証拠”に変換しましょう。



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