金融機関が納得する「業界動向・市場動向」は、“真面目に”調べなくても書けます

経営・ビジネス

小規模事業者のための《事業性評価シート》簡単整理法


なぜ、「業界動向・市場動向」で手が止まってしまうのか

金融機関から「次回までに、事業性評価シートをお願いします」と言われて、書類を開いた瞬間――

「業界動向・市場動向」

この一文を見て、手が止まってしまったことはありませんか?

  • 業界動向って、何を書けばいいのか分からない
  • 市場規模?成長性?そんな数字、調べたことがない
  • 正解が分からず、結局あと回しにしてしまう

実は、多くの小規模企業経営者・個人事業主の方が同じところでつまずいています。

  1. 「この欄だけ、どうしても書けない……」という本音
    1. 事業性評価シートで、ほぼ全員が止まる“あの項目”
    2. 専門家向けの説明を、なぜ自分が書かなければならないのか
    3. 実はそれ、あなたの能力不足ではありません
  2. 金融機関は「業界分析」を求めているわけではない
    1. 金融機関が見ている、本当のポイント
    2. 「市場が厳しい=融資NG」ではない理由
    3. 小規模事業者に求められている“最低限の視点”
  3. 小規模事業者向け「業界動向・市場動向」簡易フレーム
    1. まずはこの4点を押さえる
    2. A4半分で十分な理由
  4. そのまま使える「業界動向」の書き方(実務編)
    1. 業界動向は「大きな流れ」だけでいい
    2. 小規模事業者が書くべき“ちょうどいい粒度”
    3. よくあるNG例と、金融機関の本音
    4. 具体例
      1. 小売業(地域密着の衣料品店)
      2. サービス業(個人経営の学習塾)
      3. 建設業(住宅リフォーム業)
  5. そのまま使える「市場動向」の書き方(実務編)
    1. 市場規模・成長性は「感覚+根拠」で十分
    2. 競合は「多い・少ない」よりも「どう違うか」
    3. 「だから当社は、こうしている」で締める技術
    4. 具体例
      1. 飲食業(テイクアウト中心の弁当店)
      2. 理美容業(地域密着の理容室)
      3. 小売業(個人経営の文具店)
  6. 調べ物が苦手でもできる「デスクリサーチ」最低限のやり方
    1. やってはいけない“調べすぎ”
    2. 見るべき情報源は、実はこの3つだけ
    3. 「調べた情報」を文章に変える簡単な手順
  7. 金融機関に「この人、分かっているな」と思わせる一文
    1. 最後の1行で、評価が変わる
    2. 背伸びしない文章が、最も信頼される

「この欄だけ、どうしても書けない……」という本音

事業性評価シートで、ほぼ全員が止まる“あの項目”

決算書や資金繰り表は、まだ何とかなります。日々の数字を見ているからです。しかし、業界動向・市場動向は違います。

  • 学者や専門家が書くもの
  • コンサルタント向けの言葉
  • 自分のような現場の人間が書くものではない

無意識のうちに、そう感じてしまう方が非常に多いのです。

専門家向けの説明を、なぜ自分が書かなければならないのか

インターネットで調べてみると、

  • 業界白書
  • 市場規模データ
  • 難解な専門用語

情報が山ほど出てきます。

しかし、それらを読めば読むほど逆に混乱してしまいます。

「そもそも業界って、どこからどこまでのこと?」などと、考えれば考えるほど自分が頼りない存在に思えてきて、じりじりと焦燥感に駆られる。そして、

「ここまで調べないといけないのか……」

そう思った瞬間、手が止まってしまうのです。

実はそれ、あなたの能力不足ではありません

はっきり言えるのは、これはあなたの能力や努力の問題ではないということです。

小規模企業・個人事業主は、

  • 調査専門の人材がいない
  • 情報収集に時間を割けない
  • 日々の業務で手一杯

という前提で経営されています。

そもそも、専門家や大企業と同じ土俵で書くこと自体が無理な構造なのです。

金融機関は「業界分析」を求めているわけではない

金融機関が見ている、本当のポイント

ここで多くの方が誤解しています。金融機関は、立派な業界分析レポートを求めているわけではありません。見ているのは、たった一つです。

「この経営者は、自分の商売が置かれている環境をきちんと分かっているのか?」

これだけです。

金融機関が本当に恐れているのは「市場が縮小していること」ではありません。「市場の変化に気づかず、昔ながらのやり方に固執して、いつの間にか茹でガエルになってしまう経営者」です。

つまり、立派な統計データよりも、「最近、あそこの店が潰れたのは○○が原因だと思う。だからウチは△△を強化している」という、あなたが培ってきた日々の現場感覚を示したほうが「信頼できる経営者」として映りやすいのです。

「市場が厳しい=融資NG」ではない理由

よくある勘違いが、「“市場が厳しい”と書いたら、融資が通らないのでは?」という不安です。

しかし、金融機関も現実を知っています。

  • どの業界も楽ではない
  • 競争があるのは当たり前

むしろ評価されるのは、

  • 厳しさを理解している
  • その中でどうやって経営していくかを語れている

このような経営姿勢です。

小規模事業者に求められている“最低限の視点”

求められているのは、

  • 正確な統計
  • 難しい専門用語
  • 将来予測の的中率

ではありません。

「今の業界・市場を、現場目線でどう見ているか」

それが伝われば十分なのです。

なぜなら金融機関は、事業の当事者として「地に足のついた商売の見立て」ができているかを確認したいからです。業界や市場の変化をどう捉えているかを見ることで、データからは分からない経営者の視野と判断力、ひいては返済能力を見極めているのです。

自分の業界や市場について、自分の言葉で語れることは、それだけ真剣に取り組んでいる証拠でもあります。事業に対する熱意や本気度が、正しく伝えられるようにすることが大切です。

小規模事業者向け「業界動向・市場動向」簡易フレーム

まずはこの4点を押さえる

業界動向・市場動向は、次の4点が伝われば問題ありません。

  1. どの市場・どの顧客の話か
  2. 業界全体は、今どういう流れになっているか
  3. 市場は広がっているか、縮んでいるか
  4. その中で、自社はどこにいるか

これ以上、細かくする必要はありません。 この4点は、金融機関が知りたい“事業者の視点と立ち位置”をシンプルに把握できる構成となっています。噛み砕くと、「どこで、どんな風が吹いていて、周りはどうで、自分はどう動くか」。これだけです。

また、難しい言葉を並べる必要はありません。友人に「最近、業界はどうだい?」と聞かれた時に答えるような、そんな自然な言葉でいいのです。自然な言葉のほうが「本音」と「現場感」が伝わります。金融機関は“現場のリアルな声”を聞きたいのです。

A4半分で十分な理由

金融機関は、長文よりも整理された短文を好みます。

「ちゃんと書こう」と思うほど文章が長くなりがちですが、長すぎると読む側にとっての負担(時間・労力)が増えます。ポイントもぼやけてしまうので注意しましょう。

A4半分~1ページ。これが読みやすくて要点が伝わりやすい、ちょうどよい分量なのです。

そのまま使える「業界動向」の書き方(実務編)

業界動向は「大きな流れ」だけでいい

業界動向では、細かい数字は不要です。

  • 景気の影響を受けやすい
  • 人手不足が続いている
  • 価格競争が激しくなっている

こうした「誰もが感じている流れ」を、自分の言葉で書けば十分です。

例えば、「最近の原材料費の高騰で、周囲の店はこぞって値上げをしているが、客足が遠のいているように感じる」といった、あなたの店から見える景色を文章にしましょう。それが立派な「業界動向」です。単なる全国ニュースの解説ではなく、あなたの店の状況と関連付けて書いてください。

小規模事業者が書くべき“ちょうどいい粒度”

全国規模の話を書く必要はありません。

  • 自分の商圏
  • 自分の顧客層
  • 自分の業界感覚

これが金融機関にとって、最もリアルで価値のある情報です。

小規模事業では、基本的に商圏が限られています。また、金融機関は「この経営者が現場をどう見て、どう動いているか」を知りたいのです。つまり、全国平均ではなく、あなたの店の前を通るお客さんの変化や、近所の競合の動きなど、あなたにしか分からない情報にこそ価値があるのです。

よくあるNG例と、金融機関の本音

よくあるのが、「当業界は厳しい状況が続いています」。これだけで終わっている文章です。

「厳しいのは分かった。で、この会社はどうしているの?」――これが金融機関の本音です。

必ず一言、自社の視点を添えることが重要です。

金融機関は「返済できるか」を見ています。自社・経営者の視点を添えることで、「ちゃんと現場を見て、考えて、行動している」ことを示し、安心感・信頼感の醸成につなげましょう。

具体例

小売業(地域密着の衣料品店)

衣料品業界では、ネット通販の普及やファストファッションの影響で、価格競争が激しくなっています。特に若年層は実店舗よりもオンラインでの購入が増えており、地域の個人店は厳しい状況が続いています。当店では、近隣の高齢者層を中心に、対面での丁寧な接客や、サイズ調整などの細やかなサービスを強みに、リピーターの確保に力を入れています。

サービス業(個人経営の学習塾)

少子化の影響で、学習塾業界全体の市場は縮小傾向にあります。また、大手塾やオンライン学習サービスとの競争も激しくなっています。ただ、当塾のある地域では共働き世帯が多く、子どもに対する学習支援のニーズは根強くあります。当塾では、少人数制と柔軟な時間対応を活かし、保護者との信頼関係を築くことで、安定した生徒数を維持しています。

建設業(住宅リフォーム業)

建設業界では、資材価格の高騰や職人不足が続いており、特に小規模事業者にとっては工期やコストの管理が課題となっています。一方で、コロナ以降「住まいの快適さ」への関心が高まり、小規模なリフォームやバリアフリー対応の需要が増えています。当社では、地域密着での迅速な対応と、丁寧なヒアリングによる提案力を強みに、顧客満足度の向上を図っています。

そのまま使える「市場動向」の書き方(実務編)

市場規模・成長性は「感覚+根拠」で十分

正確な市場規模が分からなくても問題ありません。

  • 取引先が増えている
  • 問い合わせが減っていない
  • 価格が下がりにくい

こうした現場の実感は、立派な根拠です。

「SNSからの問い合わせが去年より3件増えた」「常連さんが最近、○○の話をよくするようになった」。これらは立派な「市場の成長」を示す証拠です。統計局の数字よりも、あなたの手帳に書かれた予約数や、レジで交わした会話の方が説得力を持つこともあるのです。

競合は「多い・少ない」よりも「どう違うか」

競合が多いこと自体は、マイナスではありません。

重要なのは、

  • 価格で勝負していない
  • 対応の速さ
  • 地域密着

など、どこで棲み分けているかを示すことです。

金融機関が本当に知りたいのは、「競合がいる中で、あなたの会社はどうやって選ばれているのか?」です。競合が多い=市場・需要がある証拠でもあります。“自社ならではの強み”があると、競合が多くてもちゃんと生き残れます。 お金を貸す側としては、「この会社はお客さんに選ばれ続けるか?」が気になるのです。「競合とどう違うか」「なぜお客さんがうちを選ぶのか」を示すことで、将来の安定性や成長性を伝えましょう。

「だから当社は、こうしている」で締める技術

市場動向の最後は、次のように締めます。

このような市場環境の中で、当社は○○に注力し、安定した受注を確保している。

このような一文があるだけで、「考えて経営している会社」という印象になります。

最後に一言で対応策を語り、“波に流されず、自分で舵を取っている姿”を見せることで、受け身ではない経営をアピールしましょう。

具体例

飲食業(テイクアウト中心の弁当店)

近隣には同業の弁当店が数店舗ありますが、当店は「手作り・無添加」にこだわり、健康志向の高い中高年層を中心に支持されています。最近は近くのオフィスからの注文が増えており、SNS経由の問い合わせも昨年より月平均で3件ほど増加しています。このような市場環境の中で、当店は日替わりメニューの充実とLINE予約の導入に注力し、安定した売上を維持しています。

理美容業(地域密着の理容室)

大手チェーン店も近隣にありますが、当店は「予約不要」「短時間仕上げ」「顔剃り対応」といった点で差別化を図っています。最近は高齢のお客様から「ここは気軽に来られて助かる」と言われることが増え、平日の午前中の来店数が昨年より平均2人増えています。このような傾向を踏まえ、当店では高齢者向けのサービス強化と、送迎の簡易対応を検討しています。

小売業(個人経営の文具店)

大型店やネット通販との競合はありますが、当店は「学校指定の文具がすぐに揃う」「子ども向けの文具イベントを開催している」点で地域の保護者層に支持されています。最近は学校帰りに立ち寄る子どもが増えており、レジで「この前のイベント楽しかった」と話してくれる子も多く、リピーターが増えている実感があります。このような状況を受け、当店では季節ごとのイベント企画と、学校との連携強化に取り組んでいます。

調べ物が苦手でもできる「デスクリサーチ」最低限のやり方

やってはいけない“調べすぎ”

一番やってはいけないのは、白書や統計を完璧に読み込もうとすることです。必要なのは、裏付け程度の情報です。

また、ネット検索は30分程度で打ち切ってください。検索して出てくる「小難しい理屈」を無理に書こうとすると、あなたの言葉が死んでしまいます。借りてきた言葉で埋められた書類は、金融機関の担当者にはすぐに見抜かれます。調べ物はあくまで「自分の感覚は間違っていない」と確認するための添え物にすぎません。

デスクリサーチの目的は、「研究」ではなく「現場の視点を補うこと」です。“調べすぎ”ると情報が多くなりすぎて混乱をもたらし、結局、何を書けばいいか分からなくなってしまいます。

何より、“あなただけが知っている情報”にこそ価値があるのです。

見るべき情報源は、実はこの3つだけ

  • 行政や自治体の簡単な資料
    →信頼性が高く、要点がまとまっている上に、金融機関もよく見ている資料なので、共通言語として使いやすいです
  • 業界ニュースの記事見出し
    →見出しだけでも大きなトレンド(今の流れ)は十分に押さえられます
  • 自社の現場データ(売上・問い合わせ・受注など)
    →現場の変化こそが、金融機関にとっての価値ある情報であり、説得力の源です

これで十分です。

この3つが揃えば、「業界の流れ」「市場の動き」「自社の立ち位置」が自然に見えてきます。

「調べた情報」を文章に変える簡単な手順

  1. 情報を見る
    →「今、業界や市場で何が起きているか」をざっくり把握します
  2. 「だから自分の商売ではどうか」を考える
    →“他人ごと”だった情報が、“自分ごと”に変わります
  3. 文章にまとめる
    →自分の言葉でまとめることで、“現場の視点”がにじみ出ます

この順番だけ守れば、コピペ文章にはなりません。

また、「取り込んだ情報を、自分の視点で消化して、自分の言葉で伝える」という流れが大切です。このような文章は、調べた情報+自分の現場感覚=説得力のある内容になります。

金融機関に「この人、分かっているな」と思わせる一文

最後の1行で、評価が変わる

最後は、必ずまとめを書きます。

以上の業界・市場環境を踏まえると、当社が属する市場は競争環境にあるものの、当社の強みを活かすことで、今後も安定した事業継続が可能であると考えている。

このような一文があるだけで、評価は大きく変わります。

人は、文章の最後に書かれたことを強く印象に残す傾向があるものです。最後に「経営者としての判断・見通し」「前向きな姿勢」「覚悟」を見せることで、“不安→安心・希望”の流れを作りましょう。

背伸びしない文章が、最も信頼される

難しく立派な言葉より、一貫した現実認識のほうが遙かに信頼されます。“できること”を正直に語るほうが、現実的な計画に見えるものです。背伸びして書いた借り物の言葉より、泥臭くとも飾らない言葉のほうが、“この人は地に足がついてる”と評価されます。

事業性評価シートは、あなたを裁くためのテストではありません。あなたがどれだけ真剣に商売に向き合っているかを、銀行というパートナーに知ってもらうための「手紙」なのです。自分の考えをまっすぐ伝えましょう。


ここまで読んでくださった方は、おそらく真面目に経営と向き合っている方だと思います。

毎日、現場に入りきりになっていると、なかなか気づけない事柄もあるものです。また、忙しい合間を縫っていざ書こうとしても、思うように筆が進まないこともあります。

  • いい言葉がパッと思い浮かばない
  • 自社用にどう落とし込めばいいか分からない
  • 書いてみたが、これで良いのか不安

そう感じたときは、社外の誰かと一緒に整理することで、驚くほどスムーズに形になるかもしれません。事業を外から見て、言葉に整理することで、仕上げやすくなります。

あなたの事業は、きちんと整理すれば、必ず伝わるものです。

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