「将来性・成長性」を見た瞬間、手が止まっていませんか?
事業性評価シートを書いていて、「将来性・成長性」という項目を見た瞬間、ペンが止まり、時間だけが過ぎていく——そんな経験はありませんか。
直前まで順調に書けていたのに、この言葉を見た途端、頭の中が真っ白になる。何を書いても違う気がして、結局そのまま閉じてしまう。実は、これはよくある光景です。
「何を書けば正解なのかわからない」
「立派な計画を書かないといけない気がする」
「そもそも将来のことなんて、はっきり言えない」
こうした声は、多くの小規模企業経営者・個人事業主の方から聞かれます。決してあなただけではありません。むしろ、経営を真剣に考えている人ほど、この項目で立ち止まってしまうのです。
小規模事業者が「将来性・成長性」で悩むのは、能力不足だからではない
この欄が“いちばん難しく感じる”本当の理由
「将来性・成長性」が難しいのは、あなたの能力の問題ではありません。
この欄が難しく感じられる最大の理由は、求められている情報の性質が、日常業務とかけ離れているからです。
この項目では、
- 将来の話
- 事業戦略
- 数字の話
を一度に求められます。これは、現場中心で動いている小規模事業者にとって、心理的な負担が非常に大きい内容です。
日々の経営では朝から晩まで現場に立ち、「今月の資金繰り」「目の前のお客様対応」「クレーム対応」「急な従業員の欠勤」など、目の前の課題に追われているはずです。そんな毎日の中で、急に「3年後の成長について書いてください」と言われても、戸惑うのは当然です。
まずは「難しく感じて当たり前」だと理解すること。それが、この書類と向き合う第一歩です。
大企業向けの書き方を、求められているわけではありません
金融機関は、小規模企業に対して大企業と同等の資料や思考レベルを期待しているわけではありません。
事業性評価シートは、企業規模を問わず使える汎用的な様式であり、小規模企業なりの書き方も前提とされています。にもかかわらず、「大企業基準」を勝手に想定してしまうことで、必要以上にハードルを上げてしまっているのです。
「中期経営計画」「新規事業戦略」「技術開発ロードマップ」といった言葉をイメージし、「ここまで整理できていない」「そんな立派なものは作れない」と感じてしまうのです。しかし、金融機関が知りたいのはそこではありません。
事業性評価シートは「立派に見せるための書類」ではなく、等身大の経営を、無理のない言葉で説明するための書類です。大企業向けの書き方を目指す必要はありません。
その誤解を手放すことで、「将来性・成長性」はいとも簡単に書けるようになります。
「ちゃんと考えている人ほど、書けなくなる」という皮肉
実は、真面目で誠実な経営者ほど「将来性・成長性」が書けません。なぜなら、「適当なことを書きたくない」「根拠のない数字を出したくない」と考えるからです。
一方で、
- 根拠の薄い夢
- 勢いだけの成長計画
を平気で書ける人のほうが、意外と筆が進むことがあります。
しかし、金融機関はその違いを見抜いています。書けないからといって評価が下がるわけではありません。むしろ、「簡単に書けない=現実を分かっている」と受け取られることも多いのです。
書けないのは、誠実に事業と向き合っている証拠。まずは、その事実を自分で認めてあげてください。
金融機関は「立派な将来像」を求めていない
「将来性・成長性」は“夢を書く欄”ではありません
金融機関は、夢や希望を求めているわけではありません。融資は「返済」が前提であり、将来性・成長性の欄は、返済可能性を確認するための材料にすぎません。
「将来は大きく成長します」
「市場は拡大しています」
といった前向きな言葉を書けば評価される、と思われがちですが、これもよくある誤解です。
こうした抽象的な表現だけでは、評価につながりません。金融機関が見ているのは、派手さではなく「現実味」です。前向きな言葉より、「だから返せる」という説明です。ここを意識するだけで、文章の方向性は大きく変わります。
金融機関が本当に知りたいのは、この一点だけ
金融機関が知りたいのは、ただ一つです。
「今回の融資が、事業の発展にどう使われるのか」
融資は目的ではなく、あくまで手段です。
- 設備投資で生産性がどう変わるのか
- 業務改善で利益構造がどう変わるのか
こうした因果関係が説明できれば、将来性は十分に伝わります。
たとえば、「新しい冷蔵庫を導入する」という計画でも構いません。
「食品ロスが減り、月5万円のコスト削減につながる」
「その分を返済原資に回せる」
このような説明ができれば、それは立派な成長ストーリーになります。壮大な未来より、「使い道の具体性」が重要なポイントです。
将来が不透明でも、評価される会社の共通点
将来がはっきり見えなくても、金融機関から評価される会社はたくさんあります。なぜなら、金融機関は「未来を当てる力」ではなく、考え方の筋道を見ているからです。
評価される会社には、共通点があります。
- 自社の課題を正しく認識している
- 課題に対する打ち手を考えている
- 無理のない改善を積み重ねようとしている
これが文章から伝われば、詳細な将来予測は不要です。将来が不透明なのは、誰にとっても同じ条件なのです。
難しく考えないための「将来性・成長性」シンプル構造
基本構造に必要なのは3点
「将来性・成長性」に最低限必要な要素は、次の3点です。
- 今、何が課題か
- それに対して、何をするか
- それで、どう良くなるか
金融機関が知りたい情報は、驚くほどシンプルです。理論を駆使した難しい分析などは必要なく、「因果関係」が伝われば問題ありません。
例えば飲食店であれば、
- 課題:ランチタイムの回転率が低い
- 対策:モバイルオーダー導入
- 効果:提供時間短縮、1日10名の来店増
これだけで立派な成長戦略になります。複雑に考えすぎないことが、最大のコツです。
SWOT分析は“書かなくていい”、でも“考えないと危険”
SWOT分析は、必ずしも書類として提出する必要はありません(提出を求められる場合が多いです)。
重要なのは「分析したかどうか」ではなく、「分析を踏まえて考えているかどうか」です。
文章の中に、
- 強みを活かそうとしているか
- 弱みを放置していないか
が自然に表れていれば、それで十分です。
形式的にSWOTを並べても評価は上がりません。逆に、分析を踏まえた一文があるだけで、「分析を踏まえて考えていること」はしっかり伝わります。
金融機関は当然ながら、形式より中身を重視しています。
金融機関に伝わる文章は、驚くほど短い
「将来性・成長性」は、A4半ページ程度で十分です。長く書けば良いわけではありません。むしろ、長文は要点がぼやけやすくなります。
金融機関の担当者は、日頃から多くの書類を短時間で読んでいます。その中で評価されるのは、簡潔で筋の通った文章です。
「この人は考えを整理できている」
そう感じてもらえることが、何より好評価につながります。
「強み・弱み」から将来性につなげる考え方
強みは「自慢」、弱みは「正直」でいい
強みは堂々と書き、弱みは正直に書きましょう。金融機関は、弱みがあること自体を問題視しません。
- 人手不足
- 設備の老朽化
- 営業力の弱さ
こういった弱みを隠すほうが、むしろ評価を下げます。正直に書くことは、「自社の課題を正確に把握している」という強いメッセージになります。
「弱みを隠す企業ほど、後でトラブルを起こしかねない」
金融機関は、そのような企業を数多く見てきています。正直さは、最大の信用材料になります。
弱みを書くと、なぜ逆に評価が上がるのか
弱みを書ける会社は、「現実を直視できている」と評価されます。課題を把握している=改善の可能性がある、ということだからです。
「人手不足だが、業務効率化で補う」
この一文があるだけで、
「放置していない。対策を考えている」
という印象に変わります。
弱みは、成長を阻むものではありません。成長のスタート地点なのです。
SWOTを“将来の一文”に変える簡単な方法
SWOT分析の結論を、手短かにまとめるだけで十分です。
金融機関が見たいのは細かい分析過程ではなく、「だから、どうするのか」という一点です。SWOTは次の型に当てはめるだけでOKです。
【強み/弱み】を踏まえ、【機会/脅威】に対して、今後は〇〇に取り組む
この型に当てはめるだけで、SWOTの分析結果が“未来の行動”として自然に表現できます。「この経営者は自社の現状を客観的に捉え、地に足の着いた計画を立てている」という信頼につながります。
具体例
強み×機会(積極攻勢)
- 「当社の“地域密着の営業ネットワーク”という強みを活かし、拡大する高齢者向けサービス市場に向けて、訪問型の新サービスを展開してまいります」
- 「当社の“常連客のリピート率が高い”という強みを活かし、近隣での昼食需要の高まりを背景に、ランチ提供体制を強化することで売上の安定化を図ります」
- 「当社の小ロット・短納期対応という強みを活かし、多品種少量生産ニーズの高まりを捉え、既存取引先からの受注拡大を目指します」
弱み×機会(弱点克服)
- 「人手不足という課題を抱える中、地域の介護ニーズの高まりという機会を活かすため、今回の融資により専門スタッフの採用と育成を強化し、対応力を高めてまいります」
- 「当社は、受注増加の機会がある一方で人手不足が課題であるため、今回の融資により業務効率化設備を導入し、少人数でも対応可能な体制を整えることで成長につなげます」
- 「市場ニーズの拡大が見込まれる中、設備の老朽化が課題となっているため、今回の設備投資により生産性を改善し、機会を確実に取り込める体制を構築します」
金融機関が見ているのは、「無理のない次の一手」です。
評価される「今後の展開」の書き方のコツ
「これから力を入れたいこと」は、1つでいい
「今後の展開」は、欲張らず1つに絞りましょう。やることが多いほど、金融機関には「管理しきれないリスク」と映る可能性があります。
「まずは既存事業の収益性改善に注力する」
これだけでも、十分に評価されます。
集中は、計画性の証拠です。「やらないこと」を決めている企業には、安心感があります。
新規事業・新商品は「小さく書く」ほうが通る
新規事業や新商品は、大きく書けば良いわけではありません。むしろ、控えめに書いたほうが評価されやすいです。
「まずは試験的に導入する」
「既存客10社で検証する」
こうした表現からは、リスク管理意識が伝わってきます。慎重さは、マイナス評価にはなりません。金融機関は、「失敗しない計画」を高く評価します。
融資の目的は“回収”です。派手な成長よりも、「着実に利益が出る堅実な計画」が安心材料になるのです。もっと言えば、“最悪のシナリオ”でも返済できるかを見ています。従って、新規事業は“補助的な成長要素”として控えめに書くぐらいが効果的なのです。
既存事業の改善は、実は最強の成長戦略
既存事業の改善は、実は、高く評価されやすいです。なぜなら、利益改善につながる可能性が高いからです。
- 業務効率化
- 原価低減
- 品質向上
派手さはありませんが、現実的で、再現性があります。
既存事業とは、既に一定の実績がある事業でもあります。また、前後比較できるので、改善効果を数字で見ることができます。そして、社内で完結できることが多いので外部環境に左右されにくく、既存の仕組みを活かした改善により、コストを抑えつつ利益を伸ばせます。
地味でも堅実な経営判断となり、金融機関が最も安心できる成長戦略なのです。
数字が苦手でも書ける「中期的な売上・利益イメージ」
正確な予測は不要です
将来の数字の正確さは求められていません。金融機関も、未来が完全に読めるとは思っていません。ざっくりでも、現実的で改善の方向性が見えることが重要です。
「営業利益率を現状比で約5%改善する見込みです」
「売上の約15%増加を中期的に見込んでいます」
「原価率を現状の65%から60%程度まで引き下げ、利益率の向上を図ります」
どれくらい良くなるかが伝われば、この程度の書き方でも十分です。完璧な数字を目指すのではなく、概算による現実的な見通しを書きましょう。
大切なのは「数字の理由」
重要なのは、数字そのものではなく「理由」です。数字だけでは根拠が見えません。なぜその数字になるのか、を一言添えるだけで説得力が増します。
「新たな製造設備の導入により生産効率が向上するため」
「業務プロセスの見直しと仕入先の再編により原価率が低下するため」
「オンライン販路の拡充により新規顧客の獲得が進むため」
これだけで、金融機関は十分に理解できます。
金融機関は、数字の裏にある行動(投資・改善・戦略)を見て、“計画の実現性”を判断します。リスクとリターンのバランスを見極めているのです。
施策と数字がつながると、一気に説得力が増す
施策→変化→結果
この流れを意識しましょう。単なる数字の羅列ではなく、「なぜそうなるのか」というストーリーが伝わることで、計画の現実味が増します。
「業務改善→原価率低下→利益率改善」
因果関係が見えれば、将来性は自然と伝わります。
また、施策が具体的だと「どこにリスクがあるか」も見えるので、金融機関も安心して判断できるようになります。
具体例
- 業務改善→原価率低下→利益率改善
「受発注業務のデジタル化により作業時間と人件費を削減し、原価率を現状の65%から60%に改善、営業利益率は2ポイント向上する見込みです」 - 設備投資→生産性向上→売上増加
「新型加工機の導入により、生産スピードが約30%向上し、納期短縮による受注拡大で売上は3年後に現状比15%増を見込んでいます」 - 新商品開発→客単価上昇→売上・利益増加
「既存顧客向けに高付加価値の新商品を投入することで、客単価が平均10%上昇し、売上・利益ともに年5%の成長を見込んでいます」
「この人、ちゃんと考えているな」と思わせる最後の一文
将来性・成長性は、最後の一文で決まる
最後の一文は、全体の印象を決めます。
全体の方向性をまとめて見せることで、「この会社は何を目指しているか」が伝わり、読み手の理解と納得が深まります。責任感や経営姿勢など、金融機関が重視する“信頼できる経営者像”を表現しましょう。
「上記の取り組みにより、安定的な事業運営と着実な返済を実現してまいります」
「持続的な成長と金融機関との信頼関係の構築を両立できるよう、堅実な経営を継続してまいります」
「地域社会への貢献と経営責任を果たすべく、実行可能な計画のもと着実な成果を目指します」
これらの一文があるだけで文章が締まり、安心感を与えられます。
背伸びしない文章が、いちばん信用される
等身大の言葉が、最も信頼されます。
小規模事業者には、小規模事業者なりの成長があります。日々の現場で積み上げてきた努力、お客様からの感謝の言葉。その延長線上にある未来を、そのまま書けば良いのです。
背伸びしない勇気が、最大の武器になります。
「将来性・成長性」を記述する際のコツは、壮大な夢を語ることではなく、「今回の融資という手段」を使い、「現状の課題をどう解決して事業を好転させるか」という現実的な因果関係を、背伸びせず等身大の言葉で整理することにあります。
「将来性・成長性」が書けないのは、あなたが経営を軽く考えているからではありません。真剣に向き合っているからこそ、言葉に詰まるのです。
足りないのは、能力ではなく「整理する視点」です。
誰かと一緒に整理すれば、驚くほど言葉が出てくることも少なくありません。
事業の中身は、既にあなたの中にあります。
一度整理できれば、経営はきっと、今より軽やかになるはずです。



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