―金融機関・行政機関が納得する“説得力のある一文”を作るために―
事業計画書の中で、最も重要なパートのひとつが「事業内容」です。
このパートは、あなたの事業が「誰に」「何を」「どのように」「なぜ」提供するのかを明確に示す部分であり、金融機関・行政機関・投資家が最初に注目する箇所でもあります。
ところが実際には、
「何を書けばいいかわからない」
「想いはあるけど、どう言葉にすればいいのか難しい」
と悩まれる経営者の方が多いのが現実です。
本記事では、専門的な知識がなくても書ける「事業内容」の整理手順と、金融機関・行政機関が納得する“根拠ある書き方”を、実例を交えてわかりやすく解説します。「想い」を「説得力ある論理」に変えるための、現場の経営者ならではの視点に気づいていただけるはずです。
なぜ「事業内容」が最重要なのか
金融機関や行政機関の担当者が事業計画書を読むとき、最初に確認するのが「事業内容」です。ここで事業の全体像がつかめないと、どんなに数字が良くても、支援の対象として信用されにくくなります。つまり、「事業内容」はあなたの事業の“顔”であり、読み手に理解されなければ、支援も融資も進まないということです。
専門用語や抽象的な表現を使う必要はありません。「誰に」「何を」「どうやって」「なぜ」提供するのかを、シンプルに説明するだけで十分に伝わります。
「事業内容」は、すべての数字の「理由」になる
金融機関の担当者は、まずこのパートで「この計画が”地に足が着いているか”」を判断します。もし事業内容が曖昧だと、その後の売上目標や資金計画の数字全体が「単なる希望」と見なされてしまいかねません。つまり、「事業内容」こそ、計画全体の説得力を左右する“論理の土台”なのです。
「事業内容」に盛り込むべき6つの要素
ここでは、金融機関に理解されやすい構成として、6つのポイントを整理します。堅そうな「要素」ではなく、事業内容を下記の「6つの質問」に置き換え、回答していくイメージで書き出しましょう。
提供する商品・サービス
あなたが提供する、具体的な商品・サービスを書きましょう。
例:「地元産の無農薬野菜を使った惣菜弁当」「出張訪問型のパソコンサポート」
抽象的な表現よりも、見ただけで何をしているのかがわかる説明にすることが大切です。
顧客への提供価値(ベネフィット)
「その商品・サービスによって、お客様はどう変わるのか?」を伝えます。これは、お客様の “不満の解消”と”未来の理想の姿”を描く作業です。
例:「忙しい共働き家庭が、健康的な食事を手軽に取れるようにする」
これにより、”家族の健康”と”自分の時間”が守られる(価値)という風に、お客様のメリットを掘り下げてみましょう。
ここが「なぜそれをやるのか」という事業の意義につながります。
事業コンセプト・ビジョン
どんな想いでこの事業を始めたのか、どんな社会的価値を生み出したいのかを明示します。
「地域の高齢者が安心して暮らせる環境をつくる」
「中小企業の業務負担を軽減し、本業に集中できるよう支援する」
ターゲット顧客層(ペルソナ)
「誰がこの商品を使うのか」を具体的に書きます。
「30〜50代の共働き世帯」「地域の小規模事業者」「美容意識の高い20代女性」
顧客の生活スタイルをイメージできるように書くと効果的です。
ビジネスモデル(収益の仕組み)
「どのように売上を作るのか」「どう収益化するのか」を簡潔に示します。
「月額制」「成功報酬」「定期契約」「販売+アフターサポート」
金融機関は“継続的に利益が出るか”を重視します。
差別化要因・強み
他社・競合との違い、あなたの事業ならではの強みを伝えましょう。
強みとは、”あなただからできること”です。経験年数、地域での信頼、特定技術の資格、取引先との関係など、「他の誰にも真似できない」具体的な要素を挙げましょう。
「地域密着で迅速対応できる」「代表が国家資格を持つ」「アフターフォローが手厚い」
以上の6つを網羅すれば、「事業内容」は説得力のある構成になります。
読み手に伝わる!3つのポイント
「事業内容」は、内容そのものだけでなく、“どう書くか”も重要です。
ここでは読み手に伝わる書き方として、3つのポイントをご紹介します。
A.簡潔でわかりやすく
業界の専門用語は避け、誰が読んでも理解できる言葉で書きましょう。文章が長くなる場合は、箇条書きを活用すると読みやすくなります。
B.具体的に描写する
五感で伝えるように描くと、読み手がイメージしやすくなります。
「焼きたての香ばしいパン」「手のひらサイズの木工雑貨」
など、実際の場面が浮かぶような表現を意識しましょう。
C.客観的な根拠を添える
数字やデータを入れると信頼性が上がります。
「開業エリアの人口は約5万人」「平均客単価は1,200円」「月間リピート率70%」
公的統計や簡易アンケートなど、入手しやすい情報で十分です。“現場での肌感覚”を数字に変換するイメージです。
書き方実例:伝わる「事業内容」はこうなる
単に事実を並べるだけでなく、「金融機関が気にする”安定性”や”優位性”の根拠」を盛り込むのがコツです。
例1.飲食業(地元食材レストラン)
地元○○産の野菜を中心に、素材の味を活かした無添加料理を提供します。
健康志向の20〜50代を主なターゲットとし、地域密着型レストランとして展開します。
平均客単価は1,200円、1日40名の来店を想定。地元農家との直接契約により、安定した仕入れを確保します。
例2.サービス業(訪問美容)
外出が難しい高齢者や子育て層を対象に、自宅で施術を受けられる訪問美容サービスを提供します。
スマートフォンで予約ができるアプリを導入し、利便性を高めます。月間リピート率は70%を想定。
例3.BtoB業(中小企業向け経理代行)
小規模事業者向けに経理・請求書処理の代行を行います。
初期費用0円・月額固定制で、1社あたり2万円を基本契約とします。既存顧客10社の実績を基に、年間契約率85%を維持します。
このように、具体的な数字や仕組みを示すことで、「計画として実現性がある」と感じてもらえます。
よくあるNG例と改善ポイント
| NG例 | 問題点 | 改善例 |
|---|---|---|
| 「お客様に喜ばれるサービスを提供します」 | 抽象的で伝わらない | 「忙しい家庭でも夜間に受け取れる宅配弁当サービスを提供します」 |
| 「地域密着を目指します」 | 根拠がない | 「店舗3km圏内にチラシ1,000枚配布し、LINE登録300件を目指します」 |
| 「最新技術を活用します」 | 内容があいまい | 「AI画像判定により、検査時間を従来の1/3に短縮します」 |
抽象的な言葉を「数字」「事例」「行動」に変換することが、伝わる文章のポイントです。
「誰に・何を・どうやって・なぜ」で伝わる
「事業内容」は、難しい文章でなくても構いません。
たった4つの質問に答えるだけで、しっかり伝わります。
1.誰に
2.何を
3.どうやって
4.なぜ
これらを自分の言葉で書くことで、あなたの事業はぐっと“生きた計画”になります。
事業計画書は、単なる書類ではありません。あなたの「想いと強み」を「数字と仕組み」に変換するための、ビジネスの設計図です。
ただし、自分では気づきにくい“伝わらない表現”や“抜けている視点”があるのも事実です。「この数字が、金融機関の質問に耐えられる根拠になっているか?」など、妥当性に不安を感じるときは、専門家に相談しましょう。
あなたの想いを、金融機関や支援機関に“確実に伝わる言葉”へと磨き上げ、信頼される事業計画書を完成させましょう。



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