―「このメンバーで本当に事業が回るのか?」を納得させる構成の作り方―
事業計画書の中で、金融機関や行政機関の担当者が特に注目するのが「組織体制・事業運営計画」です。
このパートは、「このチームで本当に事業を回せるのか?」「計画を実行できるだけの仕組みがあるのか?」を判断するための部分です。
どんなに優れた商品やサービスを掲げても、「誰が」「どう動いて」「どんな仕組みで実現するのか」が見えなければ、机上の空論だと受け取られてしまいます。
逆に、ここが具体的で現実的に書けていれば、「この事業は実行力がある」と信頼される計画書になります。
今回は、経営の専門知識がなくても実践できる「組織体制・事業運営計画」の書き方を、順を追ってわかりやすくご紹介します。このパートを極めれば、あなたの「想い」や「アイデア」が”机上の空論ではない”と証明できるでしょう。
なぜ「組織体制・事業運営計画」が重要なのか
「事業内容」や「マーケティング・販売戦略」が“何をするか”を説明するパートだとすれば、「組織体制・事業運営計画」は“どうやって実現するか”を示すパートです。
金融機関や支援機関が最も重視するのは「計画の実現可能性」です。いくら立派な構想でも、人員体制や業務フローが曖昧なままでは、計画が実際に動くイメージを持ってもらえません。
「夢を語るだけの計画」から「実行できる計画」へ。
その鍵を握るのが、この“組織と運営”のパートなのです。
融資担当者が一番見ているのは「人」と「仕組み」
融資担当者は、事業内容の良し悪しよりも、「最終的に、この人に融資して大丈夫か?」を見ています。計画書における「組織体制」は、あなたの”経営者としての冷静な視点”を示す場です。事業が立ち行かなくなった時、誰が責任を取り、どう立て直すのか。その「仕組み」を書くことが、担当者への最大の説得材料になります。
組織体制の書き方――“誰が、何を担当するか”を明確に
経営陣・主要メンバーの紹介
まずは、中心となる人物の経歴や強みを、「事業との関係性」を踏まえて紹介しましょう。
単に「前職は〇〇勤務」と書くのではなく、
「前職で店舗運営を担当し、年間1億円の売上を管理。その経験を活かして本事業を統括」
のように、「経験が今の事業にどう活かされているか」を明確に書くと信頼度が上がります。
役割分担と責任範囲
次に、チーム内で「誰が何を担当するのか」を整理します。
代表:経営全般・営業・仕入れ
スタッフA:接客・商品管理
スタッフB:広報・SNS発信
このように箇条書きにするだけでも、計画の実行体制が一目で伝わるようになります。可能であれば、簡単な組織図を添えるとより効果的です。
人員・採用計画
現状の体制に加えて、「将来の増員計画」も記載しましょう。
「開業時は3名体制でスタートし、売上の増加に応じて2年目に1名を追加採用予定」
金融機関は「拡大を想定しているか」「人材確保に無理がないか」を見ています。
外部リソースの活用
自社だけで全てを抱える必要はありません。外部の専門家・協力先をうまく組み込むことで、運営の安定性を高められます。
「経理は税理士事務所に委託」「Web制作は外部デザイナーと業務提携」「法務は顧問弁護士に相談」
これにより、経営基盤が整っている印象を与えることができます。
「業務の穴」をなくす視点
組織体制を書く最大の目的は、「誰が、どの業務に責任を持つか」を明確にすることです。特に小規模事業の場合、「社長がすべて」になりがちですが、これでは事業拡大時に破綻してしまいます。業務を「営業・製造・経理・総務」などに分解し、それぞれに責任者を明記するだけでも、計画の現実味は増します。
事業運営計画の書き方――“どのように事業を回すか”を描く
業務フローの整理
実際の業務の流れを、「仕入れ→製造→販売→アフターサービス」といった形で時系列に示します。
「仕入れは代表が毎朝市場で行い、午前中に調理、午後に販売・配達」
「顧客対応はスタッフが担当し、週1回ミーティングで改善点を共有」
こうした流れがあると、事業の動きが具体的に伝わります。
必要な設備・ツール
業務を円滑に進めるための設備やシステムを明示しましょう。
「業務用冷蔵庫1台」「会計ソフトfreeeを導入」「POSレジで売上管理」
これにより、実務面の準備が整っていることがわかります。
協力体制・パートナー関係
仕入れ先、物流、外注パートナーなど、事業を支える関係者を整理します。
「仕入れは地元市場の〇〇商店」「配送は△△運送」「チラシデザインは地域の制作会社」
「自社だけでなく、地域のネットワークで支え合う構造」を示すと、安定感と現実味が増します。
「仕組み化」の視点が信頼を生む
このパートでは、事業が「再現性を持って回る仕組み」を説明します。「業務フロー・仕入ルート・在庫管理・クレーム対応」などに分けて考えると整理しやすいです。特に「クレーム対応」を具体的に記載すると、「最悪の事態まで想定できている」と評価され、金融機関の信頼度が格段に向上します。
読み手に伝わる!3つのポイント
A.信頼性を持たせる
事業に関係するメンバーの経歴・資格・実績を具体的に示すことで、信頼が生まれます。「誰が」「どんな経験を持ち」「どんな役割を担うのか」を書きましょう。
特に、「事業の成功に不可欠な業務」については、”なぜこの人(あるいは自分)が適任なのか”を、過去の実績や経験に基づき、説得力を持って記載してください。
B.実現可能性を意識する
「人員が多すぎる」「役割が重複している」「外注コストが不明」などの計画は非現実的に見えます。無理のない体制を段階的に示すことが大切です。
C.視覚的・具体的に見せる
図表や箇条書きを用い、文章だけで終わらせないこと。簡単な組織図や業務フローチャートを添えるだけで、読み手の理解度は格段に上がります。
事例で見る「伝わる!組織体制・事業運営計画」
例1:飲食業(小規模店舗)
代表が経営全般と調理を担当し、アルバイト3名がシフト制で接客・清掃を行います。
開業半年後に厨房補助を1名増員予定。
食材は近隣市場と提携し、毎朝仕入れ。POSレジと会計ソフトを活用し、経理業務を効率化します。
例2:サービス業(個人事業+協力スタッフ)
個人事業主が全体統括を行い、業務委託契約を結んだスタッフ2名が施術を担当。
予約管理はLINE公式アカウントで実施し、毎月顧客アンケートを行いサービス品質を改善します。
例3:BtoB事業(外注連携型)
代表が営業・顧客対応を担当。経理処理は税理士事務所、デザイン業務はフリーランスと提携。
各分野の専門家と連携することで、少人数でも高品質なサービスを提供します。
「現実的な規模」「具体的な動き」「連携の仕組み」を明確に描くことがポイントです。
よくあるNG例と改善ポイント
| NG例 | 問題点 | 改善例 |
|---|---|---|
| 「スタッフを5名採用予定」 | 開業時には非現実的 | 「初年度は2名体制、売上増加に応じて追加採用」 |
| 「代表がすべてを担当」 | 負荷が高すぎる | 「経理は外部委託、SNSはスタッフが担当」 |
| 「協力会社と連携予定」 | 具体性がない | 「〇〇株式会社とチラシ制作契約済」 |
曖昧な表現を「人名・会社名・数字」で具体化することが、信頼を得るコツです。
「人の顔が見える計画書」は信頼される
「組織体制・事業運営計画」は、単なる人員表や仕組みの説明ではありません。
“誰と一緒に事業を進めるのか”を描く信頼の設計図です。
金融機関や支援機関が求めているのは、「完璧な体制」ではなく、“現実に動かせるチーム”です。少人数でも、役割が明確で、協力関係が見える計画は高く評価されます。
あなたの事業の強みは、メンバー一人ひとりの経験と想いにあります。その力がどうつながり、どう動いていくのかを、ぜひあなたの言葉で描いてみてください。
それこそが、「伝わる事業計画書」となるのです。
自分では気づきにくい「業務の穴」や「役割の重複」があるのも事実です。特に小規模なほど、経営者自身の役割を客観視するのが難しくなります。「本当にこの体制で事業が回るのか」と不安に感じたら、専門家に相談しましょう。「実行力のある体制」に仕上げ、“融資を勝ち取る計画書”を完成させましょう。



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