伝わる!事業計画書――中小企業・個人事業主のための「財務計画」の書き方

経営・ビジネス

―数字が苦手でも、実現可能性が伝わる“生きた計画”をつくる方法―

「財務計画」と聞くと、「数字が苦手だから……」と構えてしまう方は多いのではないでしょうか。

しかし、金融機関や行政機関、投資家が最も注目しているのはこの「財務計画」です。なぜなら、事業の実現可能性を“数字”で確認できるのはこのパートだけだからです。

どれほど魅力的な事業内容であっても、財務の裏づけが曖昧なままでは、「本当に回るのか?」「返済できるのか?」という疑念を持たれてしまいます。

一方で、根拠に基づいた現実的な数字を示せれば、事業への信頼度は一気に高まります。

本記事では、数字が得意でなくても書ける「財務計画の基本構成」と「信頼を得る数字の見せ方」を、実際の記入例を交えて解説します。「想い」を「お金の論理」に変える、具体的な数字のつなぎ方をマスターしましょう。

財務計画の基本構造を理解する

財務計画は、大きく分けて以下の3つの柱で構成されます。

  1. 資金計画(いくら必要で、どう調達するか)
  2. 損益計画(どれだけ儲かるか)
  3. 資金繰り計画(お金が足りなくならないか)

この3つは独立して存在しているように見えて、実は密接に連動しています。

たとえば、損益計画で設定した売上が資金繰りに反映され、そこから設備投資や返済計画が資金計画へつながっていきます。

つまり、「財務計画」は“数字のつながり”で成り立つパートなのです。

この関係を意識することで、読み手に「整合性が取れた計画だ」と感じてもらえるようになります。

3つの柱が「一本の筋」として通っているか?

財務計画の3つの柱は、それぞれが独立した数字ではありません。

「設備投資でいくら必要か」→「それを賄う資金をどう調達するか」→「その設備投資によりどれだけ儲かるか」という”一本の論理の筋道”が通っていることが、金融機関が最も重視する点です。

資金計画――いくら必要で、どう調達するか

最初に考えるべきは、「事業を始めるために、いくら必要なのか」という点です。

資金計画では、次の2つを整理して書きます。

  • 必要資金(使い途)
  • 資金調達(どう集めるか)

必要資金の整理

必要な資金は、「設備資金」と「運転資金」に分けて書きます。

  • 設備資金:内装工事、機械、車両、PCなど初期投資
  • 運転資金:仕入れ、人件費、広告費など日常運営費

例:設備資金300万円、運転資金200万円、合計500万円

このとき、「なぜその金額が必要なのか」という根拠を一言添えると、説得力が増します。

「厨房設備費は見積書に基づき250万円」「広告費は初期3か月間で20万円を想定」

資金調達の方法

必要な資金をどのように調達するかを明示します。

自己資金200万円+金融機関からの借入300万円(年利1.5%、5年返済予定)

ポイントは、「自己資金と借入金のバランス」です。

借入金が多いほどリスクが高く、自己資金が多いほど信頼性が上がります。

融資担当者は「あなたの自己資金への覚悟」を見ている

資金調達源の自己資金は、あなたの”事業への覚悟”を示す証拠と言えます。また、調達総額から必要な設備投資と運転資金を差し引き、最後に「予備費」を明確にしておくと、「最悪の事態も想定している」と評価されるでしょう。

損益計画――売上・費用・利益の道筋を描く

次に、事業がどのように利益を出すかを示す「損益計画」です。

ここでは、「売上」「費用」「利益」の3つの要素を、根拠とともに整理します。

売上計画の立て方

売上を「数式化」して考えると、誰でも根拠ある数字が出せます。

売上 = 客単価 × 客数 × 営業日数

たとえば、

客単価3,000円 × 1日40人 × 25日営業 = 月売上300万円

といった形です。

重要なのは、この数字が“どうやったら実現できるか”を説明できることです。「リピーター率」「近隣人口」「競合店舗数」などを参考にすれば十分でしょう。

売上計画:「希望」ではなく「市場の裏付け」で書く

「リピーター率」や「客単価」といった数字が”現実的か”を客観的に判断するのはなかなか難しい作業です。しかし、この”夢と現実の線引き”を見せることで、説得力がぐっと高まります。

費用計画

費用は「固定費」と「変動費」に分けて書きます。

  • 固定費:家賃、人件費、保険料など毎月固定で発生
  • 変動費:仕入れ、材料費、広告費など売上に応じて変動

例:家賃15万円、人件費90万円、原価60万円、広告費20万円

「変動費率(売上に対する原価の割合)」の”業界平均との比較”を頭に入れておくと、自らの計画が”甘すぎないか”をチェックできます。もしあなたの計画の費用が業界平均より極端に低い場合は、「なぜ安くできるのか」を明確に説明できる”論理的な根拠”が必要でしょう。

利益の算出

上記をまとめると、

月次利益 = 300万円 −(15+90+60+20)万円=115万円

このように、根拠をもとに導いた「数字の筋」が通っていれば、信頼度が格段に上がります。

資金繰り計画――資金ショートを防ぐ“安全設計”

黒字でも倒産する――これは、資金繰りを軽視した企業に起こりがちな現象です。資金繰り計画は、「お金の流れ」を月単位で管理するためのパートです。

現金収支と損益の違いを理解する

損益計算上は利益が出ていても、売掛金の回収が遅れれば現金が足りなくなります。

たとえば、「月末締め翌月払い」が多い業種では、常に1か月分の資金が寝ていることになります。

資金ショートを防ぐには

  • 月ごとの「入金予定」「支払予定」「残高」を表にまとめる
  • 売上の季節変動(繁忙期・閑散期)を織り込む
  • 余裕資金を“最低3か月分”は確保しておく

例:入金100万円、支払80万円、翌月残高+20万円

翌月売上減少を想定し、広告支出を抑制

こうした一連の動きを可視化すれば、資金ショートのリスクを低減できます。

「黒字倒産」という最悪のシナリオを避ける

黒字でも倒産する理由は、「売上は立ったが現金はまだ手元にない(売掛金)」というズレが生じるからです。特に「月末締め翌月払い」などが多いBtoBビジネスでは、”約3ヶ月分”など運転資金を多めに見積もっておく必要があります。資金繰り計画は、この”最悪のズレ”をチェックするための”命綱”なのです。

数字の説得力を高める、3つのコツ

根拠を明示する

「この数字はなぜこうなるのか?」を説明できることが、最も大切です。根拠は、過去実績・市場データ・見積書・統計情報など、どんな形でも構いません。

複数シナリオで検証する

「楽観・標準・悲観」の3パターンで試算しておくと、信頼感が増します。

売上90%でも黒字を維持できる計画になっているか?

このような視点があると、金融機関は安心します。

グラフで見せる

棒グラフや折れ線グラフを活用すると、直感的に理解されやすくなります。売上・利益・現金残高の推移をグラフ化するだけで、「成長のストーリー」が伝わります。

数字で「夢」を形にするために

財務計画は、単なる数字の羅列ではありません。それは、「事業が現実に動き出すための設計図」です。

数字を書くことは、未来を描くことでもあります。一つひとつの根拠を積み重ねながら、「どうすれば実現できるか」を考えていく過程そのものが、事業を強くしていきます。

数字は、あなたの想いを“伝わる言葉”に変えてくれるものです。

苦手意識を持たず、まずは一歩ずつ、数字を整理してみてください。その一歩が、確かな信頼と支援を引き寄せる数字になります。


自分だけで数字を作ると、「売上の根拠が甘い」「費用が非現実的」「資金ショートのリスクを見落としている」といった”穴”を見つけにくくなりがちです。「この数字で本当に金融機関は納得してくれるのか?」などの不安を感じたら、専門家に相談しましょう。

あなたの”想い”を”金融機関が信頼する論理と数字”に変換し、”財務的な安全設計”を施す――。数字の苦手意識を解消し、“融資を勝ち取る計画書”を完成させましょう。

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