伝わる!事業計画書――中小企業・個人事業主のための作例・サンプル(飲食店編)

経営・ビジネス

―金融機関も納得する「実現性のある計画書」を書くためのお役立ちガイド―

「事業計画書を書いてください」と言われても、どこから手をつけていいか分からない――。多くの飲食店オーナーが、最初にぶつかる壁です。「数字が苦手で書けない」「自分の想いをうまく言葉にできない」そんな不安を感じている方も多いのではないでしょうか。

ご安心ください。事業計画書は、専門的な知識がなくても「順序」と「ポイント」さえ押さえれば、誰でも作ることができます。そして、それは単なる“融資のための書類”ではなく、あなたの想いを形にし、事業を成功に導く“設計図”でもあります。

この記事では、飲食店(カフェ・食堂・レストラン・テイクアウト専門店など)をモデルに、例文・書き方のコツを紹介します。特に、「客単価」「リピート率」といった、融資担当者が最も注目する”売上の根拠となる数字”をどう作るかに焦点を当てています。

読んだ後には、「自分のお店の計画が描ける」状態になれるはずです。

  1. 飲食店が「事業計画書」で失敗しないために
    1. “熱意だけ”では伝わらない――金融機関が見るポイントとは
    2. 融資担当者が飲食店に抱く「2つの不安」
  2. 事業内容――「どんな店で、誰に、何を、なぜ提供するのか」
    1. まず“お店の顔”を言葉にする
      1. 1.店舗コンセプトと提供メニュー
      2. 2.ターゲット顧客層(ペルソナ)
      3. 3.ビジネスモデルと収益の仕組み
      4. 4.差別化ポイント・強み
      5. 書き方のコツ
  3. 市場分析と競争優位性――この立地・この客層で勝てる理由を示す
    1. “立地と競合”を数字で語る
      1. 1.商圏と顧客動向
      2. 2.競合分析
      3. 3.市場トレンド
      4. 4.優位性のまとめ
      5. 書き方のコツ
    2. 顧客分析――顧客の「満たされていない欲求」を探す
  4. マーケティング・販売戦略――お客様にどう見つけてもらい、どうリピートしてもらうか
    1. “知ってもらう・来てもらう・また来てもらう”を設計する
      1. 1.販売チャネル
      2. 2.プロモーション戦略
      3. 3.価格設定の根拠
      4. 4.リピート施策
      5. 書き方のコツ
    2. 価格設定――原価率と客単価の「適正ライン」を知る
  5. 組織体制・事業運営計画――このチームで事業を回せることを証明する
    1. “人”と“仕組み”で信頼を得る
      1. 1.経営陣と主要スタッフ
      2. 2.業務分担とフロー
      3. 3.外部リソースの活用
      4. 書き方のコツ
  6. 財務計画――数字で実現性を証明する
    1. 数字が苦手でも書ける!“根拠ある数字”のつくり方
      1. 1.必要資金と資金調達計画
      2. 2.売上予測
      3. 3.費用と利益見込み
      4. 書き方のコツ
    2. 損益計画――「売上」と「費用」の現実味(売上計画のコツ)
  7. リスクと対策――“万が一”に備える信頼設計
    1. “何が起きても大丈夫”と思わせる一文を
      1. 1.売上減少リスク
      2. 2.人材リスク
      3. 3.原材料リスク
      4. 4.災害・感染症リスク
      5. 書き方のコツ
  8. 事業計画書は、あなたの“想い”を数字で伝えるツール

飲食店が「事業計画書」で失敗しないために

“熱意だけ”では伝わらない――金融機関が見るポイントとは

金融機関や行政機関が事業計画書を読むとき、最も注目するのは「想い」ではなく「実現可能性」です。どれほど素晴らしいメニューを考えていても、“実現できる根拠”がなければ、支援や融資の判断は得られません。

反対に、売上・費用・体制を現実的に描けていれば、「この人は現場を理解している」「計画性がある」と信頼を得られます。

この信頼を築くための設計・構成が、以下の6章です。

  1. 事業内容
  2. 市場分析と競争優位性
  3. マーケティング・販売戦略
  4. 組織体制・事業運営計画
  5. 財務計画
  6. リスクと対策

それぞれの書き方を、飲食店向けの作例・サンプルとともに見ていきましょう。

融資担当者が飲食店に抱く「2つの不安」

融資担当者は、事業計画書全体を通して以下の2点を確認しています。

  1. 人件費と原価が高すぎないか: 飲食業は利益率が低くなりがち。数字の管理能力を見ています。
  2. 客が継続して来る仕組みがあるか: 開業時の集客は簡単でも、継続的なリピート施策があるかが重要です。

あなたの計画書を、この2つの不安を”具体的な数字”で解消できているか、という視点で読み直してみましょう。

事業内容――「どんな店で、誰に、何を、なぜ提供するのか」

まず“お店の顔”を言葉にする

「事業内容」は、あなたのお店の“自己紹介”です。読む人が「どんな店か」「誰のための店か」「なぜこの店をやるのか」を一目で理解できるようにしましょう。

1.店舗コンセプトと提供メニュー

「地元産の無農薬野菜を使った“日替わりランチプレート”を提供する小さなカフェです。

働く女性が“安心して通える昼食”をテーマに、化学調味料を使わず手作りの味にこだわります」

2.ターゲット顧客層(ペルソナ)

「30〜50代のオフィスワーカーを中心に、健康志向の女性を主要顧客としています。

1日平均40名の来店を想定し、リピーター率60%を目標としています」

3.ビジネスモデルと収益の仕組み

「昼営業を中心に回転率を重視。テイクアウト比率を全体の30%とし、安定収益を確保します」

4.差別化ポイント・強み

「地元農家との直接契約により、新鮮な野菜を安定供給できます。

また、栄養士監修のメニュー構成で、健康と安心を両立します」

書き方のコツ

「誰に」「何を」「どうやって」「なぜ」――この4点を簡潔に説明できていれば合格です。

市場分析と競争優位性――この立地・この客層で勝てる理由を示す

“立地と競合”を数字で語る

数字やデータが苦手でも大丈夫です。市場分析は「現地を歩いて見たこと」と「簡単な数値」を整理するだけでも十分に通るものです。

1.商圏と顧客動向

「店舗半径1km以内にオフィスビルが5棟あり、昼間人口は約6,000人。

女性比率は約45%で、ランチ需要が高いエリアです」

2.競合分析

「徒歩5分圏内にカフェ3店舗、定食屋1店舗があります。

平均ランチ単価は1,000円。当店は1,200円とやや高めですが、“健康×時短×安心”を訴求ポイントに差別化します」

3.市場トレンド

「SNSでの飲食店検索が主流になっており、“健康志向”と“映える盛り付け”の両立が求められています」

4.優位性のまとめ

「地域密着と安心感を軸に、“地元野菜×女性支持”のポジションで優位性を確立します」

書き方のコツ

統計よりも、“実際に歩いて見た情報”と“簡単なデータ”で根拠をつくるのがコツです。

顧客分析――顧客の「満たされていない欲求」を探す

ターゲット顧客(例:子育て世代、ビジネスマンなど)が、”既存店に対して抱いている不満”こそ、あなたの店の”強みの種”です。

例:「近隣のカフェは席間隔が狭い」→「広々とした個室風席」が強みになる。

この「強みの種」を、客単価や客席数にどう結びつけるかを考えましょう。

マーケティング・販売戦略――お客様にどう見つけてもらい、どうリピートしてもらうか

“知ってもらう・来てもらう・また来てもらう”を設計する

1.販売チャネル

「主な販売経路は店頭販売とテイクアウト。

今後はLINE公式アカウントで予約受付を開始し、リピーター管理を強化します」

2.プロモーション戦略

「開店前にInstagramで地元情報アカウントと連携し、1,000人に先行告知。

チラシ配布と口コミ紹介カードを活用して初月の来店促進を図ります」

3.価格設定の根拠

「原価率30%を目安に、平均客単価1,200円。

競合よりやや高めですが、ボリュームと品質で満足度を高めます」

4.リピート施策

「LINE公式で週替わりメニューを配信。スタンプカードと連携し、再来店率70%を目指します」

書き方のコツ

「誰に」「いつ」「どんな手段で」実行するかを書くだけで、“戦略”になります。

価格設定――原価率と客単価の「適正ライン」を知る

飲食業の場合、原価率30%前後、人件費率30%前後が、事業を安定させる「黄金比」の目安とされます。この目安から大きく外れている場合、「なぜ外れているのか」を論理的に説明できる根拠が必要です。

例:「原価率が45%だが、SNSでの集客により広告費をゼロに抑えるため、全体利益率は確保できる」

このような”数字のバランス感覚”をチェックし、論理的な裏付けを与えられれば、より良い評価を得られるでしょう。

組織体制・事業運営計画――このチームで事業を回せることを証明する

“人”と“仕組み”で信頼を得る

1.経営陣と主要スタッフ

「代表は調理経験15年。副店長は接客・発注担当。

開業半年後に厨房補助1名を追加予定」

2.業務分担とフロー

「開店準備→調理→接客→清掃→会計→発注の流れを、日ごとにチェックリストで管理します」

3.外部リソースの活用

「経理は税理士に委託。Web・デザインは地域のクリエイターと提携」

書き方のコツ

“全員の役割”が明確に書けているかどうかが信頼を得る鍵です。

財務計画――数字で実現性を証明する

数字が苦手でも書ける!“根拠ある数字”のつくり方

1.必要資金と資金調達計画

「開業費用:500万円(内装300/設備100/運転資金100)

自己資金200万円、借入金300万円(日本政策金融公庫)」

2.売上予測

「客単価1,200円×1日40名×25日営業=月売上120万円」

3.費用と利益見込み

「原価率35%、人件費25%、家賃10%、広告費5%。

月利益:約30万円。3か月目で黒字転換を見込む」

書き方のコツ

数字は「希望」ではなく「根拠」で語ること。見積書や実績を元に計算することで信頼性が上がります。

損益計画――「売上」と「費用」の現実味(売上計画のコツ)

「客席数」×「回転数」×「客単価」という、飲食業の基本算式で売上を算出し、論理の筋道を示しましょう。特に「回転数」は、”時間帯別・曜日別”の分析で現実的な数字を出すと精度が上がり、融資の成否に好影響となります。

リスクと対策――“万が一”に備える信頼設計

“何が起きても大丈夫”と思わせる一文を

1.売上減少リスク

「雨天・閑散期はテイクアウト・デリバリーを強化し、売上減をカバー」

2.人材リスク

「アルバイト離職防止のため、柔軟なシフト管理と週次ミーティングを実施」

3.原材料リスク

「仕入れ先を2社確保し、価格変動時はメニュー構成を調整」

4.災害・感染症リスク

「保険加入・衛生マニュアル整備・キャッシュレス対応で備える」

書き方のコツ

「起こる可能性のあること×取る行動」をワンセットで書くと、実行力が伝わります。

事業計画書は、あなたの“想い”を数字で伝えるツール

事業計画書は、単なる融資のための“提出書類”ではありません。あなた自身が事業の未来を描くための羅針盤です。書きながら、「自分の強み」「理想のお客様」「必要な資金」が整理され、お店の方向性が明確になります。

数字や文章が苦手でも構いません。大切なのは、「自分の言葉で」「根拠をもって」書くことです。

あなたの想いを、数字と計画に変えたとき、その計画書は“伝える力”を持ちます。


飲食店経営者の想いを、金融機関が納得する「論理」と「数字の裏付け」に変換するのは、一人ではなかなか難しい作業です。しかし、「人件費と原価の適正バランス」「リピート施策の数字の妥当性」といった、飲食業特有の数字を丁寧に作り込んでゆくプロセスは、あなたの事業を”机上の空論”から”確実な計画”へと変えます。 あなたの”お店への熱い想い”を、融資を勝ち取る“説得力の証拠”に変換しましょう。

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