売上の“モヤモヤ”は、あなたのせいではありません
「最近、なぜか売上が伸びない……」
「商品やサービスは悪くないはずなのに、お客様の反応が読めない」
「どこを改善したらいいのか分からない」
「正直、分析なんて難しそうで面倒だし、時間もない」
「そもそも、自分のやり方が間違っているんじゃないか」
と、一人で悩んでいませんか?
小規模企業経営者や個人事業主の方から、このような悩みを聞くことがあります。これはあなたの経営が間違っているわけではありません。市場やお客様の“姿”が見えない状態で経営判断を迫られているのですから、不安になるのは当然です。
実は「市場・顧客分析」は、数字が苦手な方でも、意外なほど簡単にできます。大切なのは、難しい統計データや専門用語ではありません。ポイントさえ押さえれば、小規模企業でも今日から実践できて、十分に効果を出せます。この記事では、その方法をできる限りやさしい言葉でまとめました。
読み終えるころには、
- お客様は誰か
- 何を求めているのか
- 自社の強みをどこに活かすべきか
がスッと整理され、迷いの少ない経営判断ができるようになるでしょう。
さらに、金融機関や行政機関へ提出する事業計画書に必要な“外部環境分析”として、そのまま活用することもできます。
ぜひ、リラックスして読み進めてみてください。
なぜ小さな会社ほど“市場・顧客分析”が効くのか
勘と経験だけの経営が、結果的にコスト高になる理由
小規模な事業ほど、わずかな判断ミスが売上に直結します。
例えば、仕入れ量を少し間違えるだけでも、
- 廃棄ロス
- 機会損失
- 不要な在庫
など、ダメージは大きくなります。
だからこそ、「勘」ではなく「根拠」を持つために市場・顧客分析が必要になります。ただ「根拠」といっても、難しい分析をする必要はありません。後述するように、市場を“ざっくり把握”し、お客様を“ざっくり分類”するだけでも十分です。
何かと揶揄されがちですが、実のところ「勘と経験」は素晴らしい武器です。しかし、時代や市場の変化が激しい今、「過去の成功体験」だけでは、致命的なズレを生んでしまうリスクがあります。そして、そのズレを修正するコスト(時間・お金・心の負担)が、結局は高くつくことになってしまうのです。
実は社長だけが持っている“お宝情報”がある
多くの経営者は、「自分には分析の材料がない」と考えています。
しかし、実は――
あなたの店舗・事業の毎日が、最高の情報源です。なぜなら、大企業が何千万円もかけて手に入れる「現場のリアル」を、あなたは毎日タダで手にしているからです。
- 来店するお客様
- よく聞かれる質問
- 反応の良い商品
- 人が動く時間帯
こうした日常の観察こそが、実は大企業よりも濃く価値あるデータなのです。
小規模企業は、お客様との距離が近い。これは何にも代えがたい強みです。
市場分析は“調査”ではなく“整理”である
「市場分析」と聞いた途端、「統計?経済?専門の調査会社?」と身構えてしまう方は多いです。確かに「難解なデータ集め」や「専門的で複雑な分析」をイメージして、思わず手が止まってしまいそうになりますが、心配は不要です。
市場分析の最初のステップは、“ざっくりで十分”な市場全体の把握です。
- 周辺の人口
- お客様の特徴
- 流行の方向性
- 競合店の様子
こうした情報を軽く整理するだけで、方向性が見えてきます。あなたの頭の中にある「モヤモヤ」とした情報を、プロの視点を使って「スッキリ整理整頓する」イメージです。
今日からできる!小規模企業のための“かんたん市場分析”
まず見るのはこれだけ!市場の3つのポイント
市場を把握する際、確認するのは3つだけです。
- 市場規模をざっくり把握:地域の人数、業界の規模感など
- トレンド(変化の方向):健康志向、共働き増加、高齢化など
- 地域性(周辺環境):住宅街なのか、オフィス街なのか、学校が多いのか
例えば、小さなパン屋の場合なら、
- 市場規模:日本のパン市場は安定しているが、高齢化により食パン需要が増加傾向にある。
- トレンド:健康志向の高まりで、無添加パンや低糖質パンが注目されている。
- 地域性:近隣エリアでは単身世帯や共働き世帯が多い。
- 結論:健康志向で手軽に食事ができる商品を求める層が一定数いると推測できる。
などと分析します。
このように「高齢化」「健康志向」「単身世帯の多い地域」などの特徴を、3つのポイントからざっくり把握することで、方向性が明確になります。
そして、ただ「パンを売る」のではなく、「高齢者向けに、食事制限を気にせず食べられる健康パンを提供する」「単身世帯の朝食向けに、少量で冷凍保存しやすい商品を用意する」など、具体的な戦略の方向性を導き出せるようになります。これはどんな事業にも応用できます。
数字が苦手でもできる“競合の見方”
競合を見るときは、次の3つだけを意識してください。
- 何を売っているか(品揃え)
- 誰が買っているか(客層)
- どう差別化しているか(強みの見せ方)
これらを観察するだけで、
- 自社が戦うべき場所
- お客様が本当に求めているもの
- 競合が満たしていないニーズ
が自然と分かるようになります。
この観察は、決して「真似をする」ためではありません。「お客様が競合店に行く理由」と「自店に来る理由」の違いを明確にし、自社独自の“戦わない場所”を見つけるための、地図づくりです。
“売れる空気感”は店の周りに落ちている
大げさではなく、市場のヒントはほとんど店の周辺にあります。
- 通行量
- 地域の人の雰囲気
- よく使われる道
- 建物の種類
- 周辺の店舗の傾向
こうした「現地の空気感」は、数字よりもリアルです。小規模企業の最大の武器は、現場を自分の目で見られることなのです。
例えば、雨の日に駅からのよく使われる道を歩いてみるだけでも、「駅前には何もないけど、この角を曲がると急におしゃれなカフェがある」といった、地図には載らない”空気感”が手に入ります。
小さな会社向け「かんたん顧客分析」5ステップ
Step1:顧客を4つの軸で分けるだけ
難しい分類は不要です。
まずは、以下の4軸でお客様をざっくり分けます。
- 年齢
- 生活スタイル(例:家族・単身・勤務形態)
- 来店・利用シーン(朝/昼/夜、週末など)
- 財布事情(価格重視か、品質重視か)
これはマーケティング理論において、顧客を年齢、性別、地域、ライフスタイルなどでグループ分けする“セグメンテーション”を、より使いやすく再構成したものです。
先のパン屋の例では、
- グループA:近隣に住む高齢者(健康志向、食パンや惣菜パンを朝食に購入)
- グループB:近隣に勤める会社員(昼休みや帰宅時に利用、ランチ需要、菓子パンやサンドイッチを好む)
- グループC:ファミリー層(週末に来店、家族全員の好みやアレルギー対応を重視)
などとグループ分けします。
Step2:“一番喜んでくれる人”を選ぶ
ターゲティングの基本は、「一番喜んでくれる人」を中心に考えることです。
理由は簡単です。喜んでくれる人は、
- リピートしやすく
- クレームが少なく
- 他社との価格競争に巻き込まれにくい
からです。
逆に、すべての人に好かれようとすると、誰にも選ばれず、常に「安いか、そうでないか」という価格競争に巻き込まれてしまいます。「一番喜んでくれる人」に集中することが、消耗しない経営への第一歩です。
先のパン屋の例では、
- 競合店(大手チェーン)が少ない「近隣に住む高齢者(グループA)」と「健康志向の顧客層」をメインターゲットに決定。
- 理由は、個人のパン屋としてきめ細やかな対応(アレルギー対応、試食提供など)ができて、リピートに繋がりやすいため。
というように、高齢者・健康志向層をターゲットに選ぶことができます。
Step3:具体的なお客様像をつくる(ペルソナ設定)
お客様を、ひとりの架空人物として設定します。
- 年齢
- 家族構成
- 仕事
- ライフスタイル
- 悩み
- よく買うもの
- 情報の見方
例えば、
- 40代女性
- 仕事と家事で時間がない
- 身体に優しいものを選びたい
- スマホで情報収集
などとざっくり設定するだけでも、お客様の“顔”が見えてきます。
先のパン屋の例なら、
- 名前:田中好子
- 年齢:68歳
- 職業:元パート勤務、現在は年金生活
- 家族:夫と二人暮らし
- 悩み:健康診断で血糖値が高めと指摘された。毎朝食べるパンの糖質が気になる。
- 行動:朝食は必ずパン。週に2〜3回ほど近隣のスーパーや商店街で買い物する。スマホは使うがSNSはあまり見ない。
など、具体的なイメージを共有できるように、「田中さん」を典型的な顧客として設定します。これは業種が違っても流用できます。
ペルソナ設定は、「誰に話しかければ、商品が売れるか」を明確にする作業です。この設定が甘いと、「万人向けの曖昧なチラシ」を作ってしまい、費用対効果が落ちます。ペルソナを設定することで、「田中さんの目に留まるデザインは?」「田中さんがよく見るSNSは?」という問いが生まれ、具体的な施策が迷いなく決まるようになります。
Step4:“本音のニーズ”を見抜く3つの問い
表面的なニーズの裏には、必ず“本音”が隠れています。
次の3つを問いかけてみてください。
- この人は、なぜこの商品を選ぶのか?
- 何に困っていて、何を避けたいのか?
- 買った後、どうなりたいのか?(未来像)
これで、本質的なニーズが浮かび上がってきます。
例えば、お客様が「安いパン」を選んでいる場合、表面的なニーズは「価格の安さ」です。しかし、
- 本音のニーズ(何に困っていて、何を避けたいのか?):「毎日の食費を切り詰めたい。家族に贅沢させていると思われたくない」のかもしれません。
- 未来像(買った後、どうなりたいのか?):「価格を気にせず、家族に美味しい朝食を提供できる良い母親になりたい」のかもしれません。
このような本音に寄り添うことが、価格ではない、あなたの商品の真の価値になります。
先のパン屋の例では、
- 表面的なニーズ:「低糖質のパンが欲しい」
- 本質的なニーズ:「健康を維持して、夫と元気に旅行に行きたい」「安心して食べられる美味しいパンが欲しい」「買い物のついでに気軽に立ち寄りたい」
などと分析することができます。
Step5:ニーズを“行動”に変えるシンプルな戦略
お客様のニーズが分かったら、次の3つの改善しましょう。
- 品揃えの調整
- 伝え方の改善(POP・メニュー・説明)
- 導線・接客など体験の改善
先のパン屋の例では、
- 低糖質で美味しいパンを開発し、分かりやすいPOPで健康へのメリットを訴求する。店内で焼いていることの安心感を伝える。スーパーの帰りに立ち寄れるよう、導線を工夫する。
とすることで、“低糖質パン+分かりやすい健康訴求”という戦略を立てることができます。
よくある間違い:小規模企業がハマりがちな“落とし穴”
「全部のお客を取りに行く」と失敗する
ターゲットを絞ることは「お客様を捨てる」ことではありません。むしろ、「大事なお客様に集中する」ための選択です。
「データがないからできない」は誤解です
必要なのは、
- 店頭の声
- 問い合わせ内容
- よく売れる商品
- 時間帯の傾向
こうした“日々、目の前にある情報”です。高額・専門的な調査や大規模データは不要です。
市場を読み違えても、すぐに修正できるのが小規模企業の強み
小規模企業は、大企業のように重い投資をしていません。だからこそ、“方向転換が驚くほど速くできる”という強みがあります。
分析とは、「小さく試して、修正する」ための道具でもあるのです。
事業計画書にそのまま使える!金融機関・行政機関が見る、市場・顧客分析のポイント
これは、多くの経営者が見落としがちな盲点でもあります。
特に融資や補助金の審査では、経営者の熱意だけでなく、「論理的な根拠」が求められます。この「かんたん分析」で整理された成果物をそのまま使えば、専門的な言葉を知らなくても、「裏付けのある、信頼性の高い計画」に早変わりします。
金融機関や行政は、以下の3点を主に見ています。
「市場の現状」と「市場の変化」が整理されているか
- 地域の特徴
- 業界のトレンド
- 顧客層の変化
これらを、大まかでも具体的に書けているかが重要です。
金融機関や行政機関が知りたいのは、「あなたの事業が、この地域社会の中で、どれだけ持続性を持って求められているか」という点です。その根拠として、大まかな現状把握と変化の方向性を示すことは、説得力の向上に繋がります。
先の例のように、「健康志向」「高齢化」「単身世帯増」などを指摘することで、信頼感を高めましょう。
ターゲット顧客が明確か
事業計画書では特に、
- 年齢
- ライフスタイル
- ニーズ
- 行動パターン
が明確であるかが重視されます。
これはペルソナそのものです。ペルソナは必ず設定し、説明できるようにしておきましょう。
顧客ニーズに基づく“行動計画”が示されているか
たとえば、
- 健康志向→低糖質商品の開発
- 単身世帯増→小分け対応
- 高齢者層→やさしい案内・見やすい店内
など、“市場・顧客→戦略”のつながりがある事業計画は、金融機関・行政機関が高く評価します。
市場とお客様が“見える”と、経営の迷いが消える
市場・顧客分析とは、難しい専門作業ではなく、「お客様の姿をハッキリさせ、経営判断を楽にする作業」です。
市場が見えると、
- 仕入れの判断
- 新商品の方向性
- 宣伝の仕方
- 値付け
すべてがスッキリ整理できるので、迷いが減ります。
そして何より――
あなたの事業には、“まだまだ伸びしろがある”ことが認識できるはずです。ちょっとした“見える化”が、大きな自信と成果につながります。
あなたの持つ「現場のお宝情報」を活用して、「迷いのない経営」を実現しましょう。
※「分析のやり方は分かったけれど、忙しくて手が回らない」「整理する視点が本当に合っているのか不安」と感じたら、必要に応じて専門家の力も頼りながら進めましょう。



コメント